発明のための再発明

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「F1 Query: Declarative Querying at Scale」 - Google内部のクエリ実行プラットフォームF1の動き

はじめに

以前Dynamoの論文を読んだので、ついでにGoogleのF1についての論文読んだ。
Dynamoは古かったが、こちらは2018年発表と新しい。
以下のリンクから手に入る。
https://ai.google/research/pubs/pub47224

F1はSpannerと一緒の文脈に居ることが多くSpannerをいじるためのものだと考えていたが、GoogleSpreadSheetなど複数ソースをまたいで動作するらしい。
論文の内容は全体を通して興味深い内容だった。
この論文では、

  • どのようにソースをまたいだ動きを実現したか
  • OLTP・OLAP・ETLという、別特性の動きをどのように一体化したか

を書いている。

以下、特に興味を引いた1章から4章の内容である。


F1の目的

F1は、社内で必要な機能である以下の3種全てを提供することを目的としている。

  1. 少ないレコードを対象としたOLTP
  2. low-latencyなOLAP
  3. データの変換やロードを行うETL

個々の機能について見れば既に実現されているものであるが、F1の新規性はDBMSやDremel(Google製のanalytical queryに特化したクエリエンジン)の機能を如何に(現代的なアーキテクチャ上で)統合したかにある。
また、初期段階ではSpannerとMesaのみをサポートしていたが、現在ではGoogleSpreadsheetやBigtableといった別のフォーマットにも対応している。

つまり、F1に対する要求は以下である

  1. Data Fragmentation
    Googleにはデータ管理のための方法が(SpannerやBigtableなど)数多く有るので、それらを横断して処理したい
  2. Datacenter Architecture
    F1は個別のマシンやクラスタではなく、データセンターに対して実行するものとして作られている。
  3. Scalability
    サイズ、速度、信頼性、コストなどの要求水準がユースケースによりバラバラであるが、各種に対応する
  4. Extensibility
    クエリとして書きづらい処理が必要になることがあるので、ユーザー定義関数のような拡張性を備える

F1の動き

具体的なF1の動きは、以下の図で表される。
「F1 Server」、「F1 Master」、「F1 Worker」が主な登場人物である。

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つまり、F1 Serverがクライアントからリクエストを受け付けたのち、

  • クエリが小さいなら、その場で実行
  • クエリが大きければ、workerに実行させるようスケジューリングする
  • 更に大きければ、MapReduceを使う

と、処理方法が3種類有る。
F1 Masterは、各データセンター内のF1のサーバー達を監視する。
ちなみに、F1 ServerとF1 Workerはデータを持たないので、台数を増やせばスケールする。

具体的なクエリ実行の流れは以下の様になる

  1. ClientからServerへリクエス
    F1 ClientがF1 ServerにSQLを送る。
    リクエストを受け取ったデータセンターよりも(対象データを保管している場所が近くて)ふさわしいデータセンターが有る場合は、それをクライアントに通知する。
    別のデータセンターを指定された場合は、クライアントはそのデータセンターに向けて再度SQLを送る。
  2. 実行プランの作成
    受け取ったSQLを物理的、論理的最適化を考慮した実行プランを生成する。(クエリ最適化の詳細はブログに書かないので本文を参照)
    クライアントはSQLを送るときにInteractiveかBatchのいずれかのMODEを指定し、オプティマイザはMODEによってどのように実行するか変化させる
  3. クエリ実行
    • Interactive 実行
      クライアントのリクエストに対して同期的に返答するモード
      クエリオプティマイザはヒューリスティックに、その場で実行する(centralized)かworkerを使用してクエリを分散させる(distributed)かを選択する
    • Batch 実行
      大量のデータ処理を行い長時間の実行が必要になる場合に使用するモードで、実行計画はF1 Server以外に保存される。
      また、MapReduceフレームワークを使用して非同期に分散される
  4. データアクセス
    F1 Serverはデータセンター毎に割り当てられているが、各F1 Serverは別データセンターのデータにもアクセス可能。
    前述のように、対象データはSpannerでも、CSVや圧縮データ(Capacitorとか)でも良い。
    対象データがconsistent readやrepeatable readをサポートしていれば、それをサポートする。
    データソースが多岐に渡るため、joinなどを行うために必要なメタデータをglobal catalog serviceという場所に置いている。
    また、クエリ発行時にDEFINE TABLEを通してメタデータを定義することも可能。
  5. Data Sinks への格納
    クライアントが要求した場合、実行結果をData Sinkへ格納することができる。
    Data Sinkには、データソースに応じて色々な形式でデータが保管される。
    必要であれば、出力先を変えたり、session-local な一時データとして保存することも可能
  6. クライアントへ返答

ちなみに、クエリはSQL2011標準に従い、拡張としてArrayなどをサポートしている。(つまり、joinや集計、window関数が使える)

閑話休題

長くなってきたので小休止。
ここからが、論文のテーマである「どのようにクエリを実行するか」の詳細が始まるので、一旦整理する。

F1に送られてきたSQLはF1 Server内で実行計画へと変形される。
実行計画の作成時において、複数の選択肢の中から実行方法が選択される。
実行方法が変わるとF1の動作は大きく変化し、この変化こそがOLAP,OLTP,ETLの全種サポートを可能にした根本である。

実行方法は下のように分類できる

  1. Interactive モード
    同期実行するモードで、少量のデータをさばく場合に使用される。
    クライアントがInteractiveモードを選択した場合、オプティマイザはクエリを基に2つの実行方法をのいずれかを選択する
    1. Centralized execution
      1スレッドで完結し、クライアントからのリクエストを受けたF1 Serverがその場で実行する
    2. Distributed execution
      Workerを通して、複数のサーバーにクエリを実行させる。
      F1 Serverは各Workerのコーディネーターとして機能する
  2. Batchモード
    非同期実行するモード
    大量のデータを扱う場合に使用される。
    長時間実行されることを想定したフォールトトレラントアーキテクチャを持っている。

以下は、各動作内容を詳細化しているので、この分類を頭に置いた上で、各論を見ていく。

Interactive + Centralizedの動き

1スレッドで完結するモード。
SQLを基にした実行計画の内容を、単一スレッド上で各演算が実行される
論文では、ScanとJoin、Sortの動きを紹介している。

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  1. Scan
    データソースに応じて動きが異なる。
    フルスキャンしか出来ないものもあれば、key-based index lookupをサポートしているものもある。
    他にも、Array型を利用する挙動やProtocolBuffersを利用した挙動もある。
  2. Join
    nested loop join, hash join, merge joinなどが使える。array joinという、array型用のjoinも有る
    また、Spannerが持つストリーム用のmerge joinも使える
  3. その他
    Projection, Aggregation, Sort, Union, Window Function, Limit, Offsetなどがある。

Interactive + Distributed の動き

Workerを使用して、並列実行するモード。
実行計画は処理の一部を表したFragmentに分けられ、FragmentはDAGになる。

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特徴は

  • Fragmentは各ノードに割り当てられ、マルチスレッドで動き、場合によっては複数Workerを使って一つのクエリを処理することも有る。
  • 各演算には(joinや集計のために必要な列のような)必要条件があり、必要条件に入力互換性がある場合は両演算は1つのFragmentにまとめられ、違う場合はオプティマイザが変換用の演算を間に挿入する。
  • 各Fragmentに割り当てられるノード数は、子Fragmentが必要としたノード数の大きい方の値を取る。
  • Fragment内の各ノードでは、各行の計算が終わったら、結果をどのノードに送るかを計算するpartitioningという作業が存在する。
  • partitioning中には転送データを削減する処理も入っていて、例えばCOUNTを取る場合には各ノードの中でCOUNTを取り、その結果を親Fragmentに送ることで転送量を減らす。

Batch モード

Googleでは大規模データのために、MapReduceやFlumeJavaを使ってきたが、メンテナンス性や再利用性から、宣言的なSQLを使えるようにした。
クエリの最適化や実行プランの生成時はInteractiveと同じ処理を実行している。

Batchモードには以下の特徴がある。

  • F1 Serverがクエリを管理するのではなく、中央集権で動いている。
  • 途中処理を保存することでF1 ServerやWorkerが止まった場合も継続可能
  • Fragmentの実行タイミングはバラバラである (InteractiveではRPCにより同期している)
    フォールトトレラントMapReduceを使用していて、実行結果はColossusに保存され共有される。
    パイプライン処理ではないので、MapReduce処理における依存関係がなければ複数のFragmentに対するMapReduceが同時に動くことが出来る
  • BatchモードではMapReduce間で多大なデータ移動が発生するので、Hash joinではなく、Index nested-loop join(lookup join)にしてIOを下げることがある
  • クライアントとの接続が切れても続行可能

Batchの流れは下の図のようになっている

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  1. F1 Serverがクライアントからリクエストを受け付ける
  2. 実行計画をSpannerで作成された、QueryRegistryに登録する。
    QueryRegistryは実行計画だけでなく、Batch関連のメタデータを保存している。
  3. 登録されたクエリはQueryDistributerが負荷やデータソースを考慮して、各データセンターに分配する。
  4. QuerySchedulerがクエリを発見したら、実行すべきタスクの依存グラフを作成する
    各データセンターでは、QuerySchedulerが定期的にクエリを監視している
  5. データセンターに余裕ができ次第、QueryExecuterにタスクを実行させる
  6. QueryExecuterがMapReduceを使用してタスクを行う

当然、これらの機能は耐障害性を持っていて、たとえデータセンターが死んでも別のデータセンターにクエリが再配布される。


終わりに

以上が、「F1 Query: Declarative Querying at Scale」の内容である。
この論文には、他にも最適化やUDFなどによるクエリ拡張、パフォーマンスの話が載っているが、長くなるのでここまでにする。

この論文は詳細に書かれていて興味深い工夫もあり面白かった。
BigQueryがGoogleSpreadSheetに対応したというのも、同じような仕組みなんだろうなと想像が膨らむ内容でもあった。